嬉しくなる独創的なアイデア
【君の名は。】感想で言ったように、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」。
そのため、映画もたくさん観ていると、似たような話やアイデアに遭遇する。
今まで観た映画は1000本を超えている僕でも、ごくまれに、「こんなアイデアがあったのか!」と驚くことがある。
それが本作「パッセンジャー」だ。
その素晴らしいアイデアを含めて、ネタバレで解説したい。
「パッセンジャー」の序盤のあらすじ
さて、まずは「パッセンジャー」の序盤のあらすじから。
超大型宇宙船アヴァロンは、地球から遠く離れた植民星ホームステッドIIへ向けて航行していた。
地球からホームステッドIIまでかかる時間は120年。
そのため、乗客の5000名はコールドスリープされ、アヴァロンは完全自動運転で目的地を目指していた。
しかし、地球から30年の距離で、アステロイドベルトに遭遇したアヴァロンはエネルギーシールドで防ぎきれない巨大な隕石と衝突してしまう。
この事故のために、1つの休眠ポッドが故障し、エンジニアのジム・プレストン(クリス・プラット)がコールドスリープから目覚める。
予定より90年も早く、ただ1人だけ目覚めてしまったジムの運命は…。
素晴らしい設定
この、「完全自動運転中の宇宙船で、予定より90年も早く、しかもただ1人だけ目覚めてしまう」というアイデアがすごい。
しかも、「再びコールドスリープに戻る方法はない」(!)
ただ1人目覚めたジムは、念願の目的地に着くよりも先に、宇宙船アヴァロンの中で一生を終えなければならない。
これは怖い。
最初はジムも状況が分からず、自分が目覚めたのは、アヴァロンが目的地のすぐ近くまで来たためだと勘違いする。
しかし、なぜか他の乗客は誰ひとり起きてこない。
そこで、ようやく、この絶望的な状況に気付くわけである。

“どうすればいいんだ。ジャケットで悩んでる場合じゃなかった。”
“お前らしくないぜ!スター・ロード!”
極限の状況
宇宙船アヴァロンの重大なエラーに対して、「解決策が用意されていないのかよ!」と、思わずツッコミを入れたくはなる。
しかし、「パッセンジャー」の時代では、このような星間移動は、時間こそかかるものの、さして難しいものではなく、ジムが遭遇した事故は確率的にほぼ無視して良い程度のものらしい。
ここからジムがどういう行動を取るか、それが「パッセンジャー」の見どころ。
極限の状況のなかで、ついには自殺まで考えるジムの行動はよく分かる。
そして、ここでもう一人の重要キャラクター、オーロラ・レーン(ジェニファー・ローレンス)の登場となる。
しかし、それは、ジムが「事故を装いオーロラを起こす」というものだった!
ここで僕は「うわ!なるほど!そういう話だったのか!やめてくれ~!」と心の中で叫んでいた。
予告編ではうまいこと編集されていて分からないのだが、まさかこういう展開とは!
これは、あとあとオーロラが「殺人よ!」という通り、非常に重いテーマ。
道連れに起こされたオーロラも、目的地に到着することなく、アヴァロンの中で一生を終えなければならないからだ。
女性目線だと、起こすのがイケメンのクリス・プラットだから、いいんじゃね?となりがちだが、それは違う(笑)
もし同じ状況で、キモメンに起こされたら、と、想像してみて欲しい(笑)
未製作となっている優れた脚本「ブラックリスト」
繰り返しになるが、「パッセンジャー」は「コールドスリープで、起きる時間がズレるだけで、それは恐怖になる」というアイデアがスゴイ!
そのアイデアから出発し、ここまで独創的なストーリーになる、というのが驚きであり嬉しくもある。
この「パッセンジャー」の脚本を書いたのが、「プロメテウス」のジョン・スペイツ。
調べてみると、「パッセンジャー」の脚本は、未製作となっている優れた脚本を選ぶ「ブラックリスト(Black List)」に2007年に選ばれていた。
この「ブラックリスト」というのも初めて知ったが、そこには過去に「アメリカン・スナイパー」なども選ばれていて、リストを見ているとなかなか面白い。
そして、この「パッセンジャー」の斬新な脚本が、ほぼ10年前に書かれていたとは、これまた驚き。
あなたは何を考えるか?
「パッセンジャー」は、観る人によって、いろいろなことを感じることになると思う。
入口がまったく予想外のアイデアからスタートするように、そのストーリーがどこに向かって収束するかもまったく予想できず、あれこれ考えることが出来て非常に楽しかった。
映画を観終わったあとも、アヴァロンのシステムについてあれこれ考えたり、インスピレーションが刺激されるお得な映画であった。
前田邦彦の採点と点数
- ストーリー: 12点(20点満点)※基本的に面白いが、ガス(ローレンス・フィッシュバーン)の扱いなど、ご都合主義な部分も多い。
- 設定: 4点(10点満点)※やはり宇宙船アヴァロンのシステムについて考えてしまう。
- 映像: 15点(20点満点)※感想内で触れなかったけど、悪くない。
- 編集・演出: 10点(10点満点)※無駄も冗長もなく、ストーリーに集中できる。
- キャスティング・演技:10点(10点満点)※クリスがイケメンすぎてテーマがぼやける(笑)が、良い。
- 音楽・効果音: 6点(10点満点)※ストーリーの関係上、さまざまな曲が必要になる。良い。
- 前田邦彦の+アルファ:20点(20点満点)※アイデアの起点「コールドスリープで、起きる時間がズレるだけで、それは恐怖になる」を評価。
【パッセンジャー】の点数は【77点!】
