「ザ・ウォーク」感想(ネタバレなし)

観客誰もが地上411メートルのワイヤー上に立つ

※ジャケット画像はAmazonリンクを使用しています。

映画「ザ・ウォーク(The Walk) 」とは

1974年にワールドトレードセンターのツインタワー間で綱渡りをしたフランス人、フィリップ・プティの挑戦を描いた作品である。

同じ題材として、2008年のドキュメンタリー映画「マン・オン・ワイヤー」があるが、「ザ・ウォーク」はそれらを下敷きにしたドラマ映画である。

「ザ・ウォーク」序盤のあらすじ

1974年のニューヨーク。前年に完成したワールドトレードセンターのツインタワーの間にワイヤーをかけ、そこを綱渡りすることを夢見る青年がいた。

彼の名前はフィリップ・プティ(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)

物語は彼の少年時代に遡る…。

前田邦彦の感想

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(注:基本的に以下の感想はネタバレなしの方向で書いています。ただ物語は何でもそうですが、一切予備知識を入れない方が当然楽しいので、その点はご了承ください。)

世の中には、思い付いた時点で勝ちという企画が存在する。

「かつて、ワールドトレードセンターのツインタワー間にワイヤーを張り、そこを綱渡りした実在の男の話を、立体映像で映画化する」

もちろん実際のところは分からないが、この企画ならば文句なしで一発で通ったのではないか。

それほど、このアイデアは素晴らしいと思える。

空中に張られたワイヤーロープが、3Dで目の前に存在するのを観て、これほど立体映像に適した題材というのも中々ないだろうと感心しきり。

そして、この企画が3D映画であることの利点は、この世で主人公フィリップ・プティしか体験しえなかったことを、自らの疑似体験とできることにある。

この映画「ザ・ウォーク」を監督したのが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ」のロバート・ゼメキス監督。

もともとVFXに強い監督であったが、近年は「ポーラー・エクスプレス」のように、3DCGアニメーションの作品も製作・監督していた。

おそらくではあるが、そういった経験が、この「ザ・ウォーク」にフィードバックされているように思う。

「トゥモローランド」のブラッド・バード監督がそうであったように、3DCGをベースに考えると、そこに既存のカメラワークの方法論以上のものが生まれる。

なぜかと言えば、3DCGでは、コンピューター内に構築した立体空間の中を、質量のないカメラが縦横無尽に動くことが可能だからである。

これは、物理的なカメラをベースにカメラワークを考え「CGを使わないことにこだわった」とか言う監督には到底追いつけない世界だ。

「ザ・ウォーク」では、今はないワールドトレードセンターの地上411メートルの高所からの映像を表現するだけではない。

状況を説明するために、視点が縦横無尽に移動するのみならず、カメラワークによって、人間が高所で感じる目眩のようなものまで表現している。

この辺りは、ぜひ実際に映画館で体験していただきたいところ。

そして、最終的には、観客の誰もが主人公フィリップ・プティと同じ視点で、地上411メートルのワイヤーの上に立つことになるのだ。

当然、物語のクライマックスは、前述の綱渡りのシーンであるが、もちろんそこに至るまでの経緯も描かれる。

フィリップ・プティは、このチャレンジを、アート、そして、クーデターと呼ぶ。

それもそのはず、ワールドトレードセンターでの綱渡りは、ゲリラ的に展開されるもので、もちろん違法。

そのため、彼が共犯者と呼ぶ仲間の存在が不可欠になるのだ。

そういった人間ドラマについても、考えさせられるものがある。

さて、僕は、人が物語を楽しむのは、つまるところ、

「一度切りしかない自分の人生において、物語は自分以外の人生を経験できる唯一の機会であるから」

と考える。

個々人のバックボーンや考え方において、物語の中の人物に共感できることも、またその逆の場合も存在するだろうと思う。

僕の場合、「ザ・ウォーク」の主人公、フィリップ・プティに対して、まったく感情移入できるところはない。

そもそも、何でそんなことをしなければならないのだ、とさえ思うのだ。

しかしである。

動機は分からなくても、その偉業に対しては、素直にすごいな、と思う。

そう、たとえ、その動機は分からなくても構わない。

世界には、自分の想像できない価値観が存在する。

それを知るというのも、また重要なことである。

「アバター」を皮切りに、3D映画が普及して、かなりの時間が経過した。

3D版が公開されている場合、もちろんそちらの方が楽しめるのは間違いないのだが、

「この映画は3D版を観ることが必須である」

と、思える作品は、僕の場合、今のところ「ゼロ・グラビティ」と本作「ザ・ウォーク」に限られる。

この2本は、3D映像によって、映画をただ観るだけでなく、「その内容を体験する」という領域にまで踏み込んでいると思える素晴らしい作品だと思う。

さて、あなたは、地上411メートルのワイヤーの上で何を思うのか。