スター・トレックにおけるリブートとは


※ジャケット画像はAmazonリンクを使用しています。
さて、いよいよ日本でも公開が始まりました。スター・トレック イントゥ・ダークネス。
今回はスター・トレック イントゥ・ダークネスを楽しむために、前作のスター・トレック(2009)を設定ネタバレありで考えてみたい。
そもそも物語がヒットすると、そこに続編というものが生まれる。
TVであればシリーズが続き、映画であれば続編が作られることが多い。
そこからさらにスピンオフ作品が生まれれば最高だ。
ところが、続編は続けるほどに縮小再生産の悪いループにはまってしまう。
ネタに行き詰まったシリーズが次に打つ手がプリクエル(前日談、前日譚、エピソード・ゼロ…)だ。
スター・ウォーズ エピソード1の成功以降にプリクエルが増えたように思う。
しかしスター・ウォーズは最初から計画的に4→5→6→1→2→3の順番で作られており、いわゆる後付け制作のプリクエルとは区別したい。
僕は、後付け制作のプリクエルは基本的に好きじゃない。理由は単純で、大して面白くないからだ。
そもそも続編が繰り返されたシリーズの敵は、強い奴のインフレ(※1)傾向にあるのが普通だ。
プリクエルに登場する敵が、続編の敵より強かったら、後の話と整合性が取れなくなってしまう。
後付け制作のプリクエルは、映画としては最新作でも物語中の時間軸では過去に遡ってしまうので、どうしても地味にならざるを得ないという構造上の欠陥を持つ。
そのため、プリクエルまで作られてしまうと、そのまま続編が作られることなくシリーズ自体が終了するパターンが多い。
そこで最近の傾向として出てきたのが、リブートだ。
リブートとは、それまでのシリーズと関係なく、再び同じ設定の作品を作ることだ。
要は仕切り直しである。
似たようなこととしてリメイクがあげられるが、リメイクは文字通り過去の作品を作り直すことであり、原作とリメイク作の構造は似通ったものになる。
リメイクは、ストーリーはそのままに、現在の技術で同じ作品を作り直すといった形が多い。
CG全盛の現在では考えられないが、昔の映画などは、自分の想像力で作品を補わなければならないということは珍しくなかった。
これはどう見てもミニチュアだけど大きいんだ!とか、何かこのメカだけ動きが粗いんだけど気にしない!とかね(笑)
そういった部分を作り直すだけでも価値があると思うのだけれども、実際は過去の名作には思い出補正がかかってしまうので、リメイクで成功するのは難しい。
さて、リブート作品はどの辺から始まったかと考えると、「バットマン ビギンズ(2005)」辺りからだろうか。
当初、バットマン ビギンズは、ティム・バートン監督が始めたバットマンシリーズ(シュマッカー版含む)のプリクエルかと思われたが、その後のダークナイトに続くクリストファー・ノーラン監督の新たなバットマンシリーズであった。
同じ名前のキャラクター、設定が登場しつつも「オリジナル(シリーズ)作品」と「リブート(シリーズ)作品」の間に直接の関係はない。
リブートはオリジナルに影響を受けることなく再スタート出来るために大変に便利な手法であり、シリーズを一新させる強力な切り札だ。
そのため、今後もこの手法は増えていくだろうと思われる。
しかし、そこにデメリットはないのだろうか?
そう、リブートはオリジナルに関係なく再スタートするために、スタートと同時に過去の資産を切り捨てる行為でもある。
そのため、続編やプリクエルなど世界観が続いていた場合のメリットである過去の資産を伏線として使うことが出来なくなってしまうのだ。
続編が作られるほどの人気シリーズであれば、当然そこに大勢のファンがいるために、過去の資産を切り捨てるのは危うい行為でもある。
さて、ここで前作のスター・トレック(2009)である。
スター・トレック(2009)は、位置付けとしては、まさにこのリブート作品であった。
スター・トレックは過去の資産の量が半端無く多いシリーズだ。
スピンオフを含むテレビシリーズ5本。アニメシリーズ1本。劇場版はスター・トレック(2009)の前に既に10本。
トレッキー(トレッカー)という熱狂的なファンを抱える一大シリーズである。
とてもじゃないが、リブートして、これらの設定をなかったことに出来るようなシリーズではない。
そこに出されたのが、まさにSF的な回答「パラレルワールド」だ。
スター・トレックシリーズはSF作品であり、既に作品中にいくつものパラレルワールドが存在する。
可能性の未来であったり、平行宇宙であったり、その数や種類も多い。
特筆すべきは、そのパラレルワールドの中に「鏡像世界」と名前の付けられている世界が存在することだ。
鏡像世界では元々のスター・トレックの世界とは全く違う歴史が語られている。
そして面白いのは、この鏡像世界は複数のシリーズに同設定で存在するのだ。
数あるパラレルワールドの中で、鏡像世界のみ繰り返し登場するといえば伝わるだろうか。
そう、スター・トレック(2009)では、この鏡像世界以外にも、固有のパラレルワールドを1つ設定したのだ。
ロミュラン人ネロのタイムスリップによって生まれた元々のスター・トレックの世界とは別の時間軸、それが新しいスター・トレックの世界である。
これは鏡像世界と同様に、オリジナルの時間軸とは別に描かれるために、リブートにして過去の資産を捨てないという天才的なアイデアであった。
物語は、オリジナルの時間軸とは違ってしまった世界にあっても、再びエンタープライズにお馴染みのクルーが集合し、また、クルー間の絆を再確認するという感動的なドラマになった。
そして、スター・トレック イントゥ・ダークネスでは何が描かれるのか…。(続く)
余談:こうして考えてみると、スター・トレックはさすがに長期シリーズなだけあって、オリジナル(TOS)、続編(TNG)、スピンオフ(DS9、VOY)、プリクエル(ENT)、リブート(2009、STID)と、全てのパターンを網羅しているのがすごいな…。

続編? スピンオフ? プリクエル? リブート?
(※1)強い奴のインフレ:相原コージ・竹熊健太郎による漫画「サルでも描けるまんが教室」(通称:サルまん)により提唱された漫画の類型の一つ。バトル漫画では「最初の敵より二番目の奴が、二番目より三番目の方がより強い」ということを繰り返すこと。多くは最終的には収拾がつかなくなる。「強さのインフレ」と呼称されることも多いが、原典による正しい記述は「強い奴のインフレ」である。